大和大学の"激狭"個人研究室から考える梅光学院大学研究室訴訟(→棄却)
近年、企業の職場において、自分の固定席を持たずに自由に席を選択して働く形態、いわゆるフリーアドレス制は珍しくなくなっています。このフリーアドレス制を導入することで、
・職員間でのコミュニケーションが活性化する、
・職場の空間を有効活用できる、
などが期待できる、とされています。
・職場の空間を有効活用できる、
などが期待できる、とされています。
このようなこともあり、2019年4月、梅光学院大学(←外部リンク、山口県下関市)の新校舎「The Learning Station CROSSLIGHT」(←外部リンク)では、「個人研究室」(=個室の個人研究室)は存在せず、仕切りがない空間に、教員・職員がフリーアドレス制で働くということを導入し、話題となりました(梅光学院としては、「共同研究室」と捉えているとのこと)。
【参考】
そこで、2021年8月梅光学院大学の一部の教員や元教員が個人研究室を喪失したことで研究・教育活動に支障が生じていること等のことから理事会に対して損害賠償請求を行いました(この新校舎の建設を決めた当時の梅光学院理事長、本間政雄さんは元・文部科学省の職員さんで、ご著書もある大学改革派で有名な方)。
7月18日(火)、梅光学院大学の裁判(地方裁判所)の判決が出ました。
判決要旨(注意) → 棄却(原告側は控訴を検討)
「教員と大学の雇用契約では、研究室を利用させることが大学の付随義務になっている」と指摘した上で、研究室の面積、利用形態、設備について具体的な定めや基準はなく、大学側がどのような研究室を設置し、割り当てるかは「相当に広い裁量を有している」とし、「原告らの権利や利益を侵害したとはいえない」と結論づけた。
(出典:朝日新聞デジタル)
「研究環境が個人研究室と比較して相対的に悪化したと認めつつも、専任教員として行う研究、教育に支障を生じさせるものとは言えない、とした」
(出典:山口新聞15面(2023年7月19日))
同大が学生と教員が交流しやすいようにフリーアドレスを設置したとして「そのようなコンセプトを優先するために研究や教育業務に一定の支障が生じたとしても、被告の裁量を逸脱するほど大きなものではない」と指摘。「大学の研究室利用について権利や利益を侵害したとはいえない」と結論付けた。
(出典:毎日新聞)
注意:判決文(←外部リンク、担当弁護士さんのTwitter)は28ページもあるので、朝日新聞デジタル(←外部リンク)、山口新聞15面、毎日新聞(←外部リンク)の記事を引用しました。なぜか同じ裁判の判決でも表現が異なり、真実か分かりません。(←山口新聞が一歩踏み込んだ解釈をしているような気がします。)
大学の研究室は、大学設置基準 第36条第3項(←外部リンク、法律ではなく、省令):「研究室は、基幹教員及び専ら当該大学の教育研究に従事する教員に対しては必ず備えるものとする。」と定められています。そのため、研究室を備えることは必要であるが、フリーアドレス、狭い個人研究室、共同研究室等は、ダメではありません。
感想:朝日新聞デジタル(←外部リンク)、毎日新聞(←外部リンク)によると、原告側はフリーアアドレス制の導入により、研究活動に支障がある。また、そもそもフリーアドレス制の共同研究室は「研究できる環境ではないため、研究室ではない」と主張していると思います。これに伴い、研究室を利用する権利や利益が侵害されたため、不法行為に基づく損害賠償請求(月5万5千円、うち5千円弁護士費用)を行なった。
確かに、大学側で個人研究室を廃止し、フリーアドレス制としたことにより、各教員の教育・研究活動に大いに影響が出たと思います。しかし果たして大学が原告側の(法律上保護された)研究室を利用する権利又は利益の侵害とまで言えるのか?、と言うことが論点であったと思います。ただ研究室の定義は広く、大学は(研究ができる、できないではなく、)研究室と称するもの自体設置しているため、文章だけ見ると、確かに裁判所の言っている、「原告らの権利や利益を侵害したとはいえない」ということは正しいと感じます。
フリーアドレス制導入により、「教職協働(教員と職員が一体となって学生を育てる)」を進めるといったコンセプト自体は、素晴らしいとは思います。しかし大学では入試・渉外関連のように主に大学外での業務が多ければ、メリットがある場合があると思いますが、その他の業務においては、デメリットしかないように思います。
https://t.co/mkwbnjt8oD...
— 弁護士 西野裕貴 (@YukiNishino42) January 24, 2024
梅光学院大学フリーアドレス研究室訴訟の一審敗訴判決を受けて、憲法、教育法がご専門の堀口悟郎先生に、一審判決の問題点について、意見書をいただきました。公表していいとのことですので公表いたします。
専門性と論理性による説得力が半端ないです!! pic.twitter.com/ek2xCFuQWM
実は、フリーアドレス制ではありませんが、大和大学の教育学部、保健医療学部、政治経済学部の個人研究室は、「劇狭」で、大学では珍しく、中学校・高等学校のように職員室(大和大学としては、「共同研究室」と位置付けている)があります。
(出典:Wikipedia)
大和大学理工学部における設置認可では、当初、中学校・高等学校の職員室のような共同研究室と、プライベートラボの2つ設置するとしていました。しかし、大学設置・学校法人審議会(←外部リンク)より次のような指摘がありました。このような指摘があったため、一般的によくあるような大学の研究室へ変更されたとのこと。
(要約)
プライベートラボ:面積が狭く、教育・研究活動を行う上で支障がないくらいの研究機材・図書等の配置や保管スペースが必要。また、データセキュリティが確保できるか?
また、LEC東京リーガルマインド大学(2004年開設、2009年募集停止、2013年(学部のみ)廃校)、2010年の独立行政法人大学評価・学位授与機構による大学認証評価において、「大学評価・学位授与機構が定める大学評価基準を満たしていない(不適合)」(←外部リンク、pdfファイル)とされた。
(出典:独立行政法人大学評価・学位授与機構「LEC東京リーガルマインド大学認証評価の評価結果について」(←外部リンク、pdfファイル))
(要約)個室ないしそれに相当する部屋を整備し、外部から干渉されない環境を確保する必要がある
感想:
大和大学やLEC東京リーガルマインド大学の事例を見ても、「劇狭」研究室、フリーアドレス制は、教育・研究活動に影響はあることは容易に推測でき、是正対象である。そのため、梅光学院大学のフリーアドレス制の問題は、フリーアドレス制が教育・研究活動での支障があり、これを改善するために大学側と協議する、というのが筋(既に改善のためのワーキンググループを実施)。これを各教員の(法律上保護された)研究活動に支障があるとし、損害賠償請求の裁判を行なった、少しズレていると感じ、大学との争い方を間違えたのか?と思います。
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